北風小娘 (女神のため息)

その国の四季には それぞれを司る女神がいる

 

麓では 紅葉の帳(もみじのとばり)が水鏡(みずかがみ)に反射して

山頂では 赤朽葉(あかくちば)が樹々の根元を覆い始める頃

 

冬の女神は 地域の人々に「森の鎮守様」と呼ばれている

山の入口に祀られている 古い神社の大きなイチョウの枝に腰かけていた

 

北風小僧は いつものよう冬の女神の周りをピューピューと駆けまわり

「妹が欲しい」とお願い事をしている

 

冬の女神は 自分の亜麻色の長い髪の毛を一本抜き取ると少し息を吸い 

「ふうっーーー」と

優しい“”ため息“”をつくように息を吹きかけると 髪の毛を摘まんだ指を離した

 

冬の女神の優しい“”ため息“”は 大きな渦を巻きながら 髪の毛を乗せて天に向かい

 

渦はだんだんと早くなり 

その様子を 目ん玉をぐるぐる回しながら見ていた北風小僧は

眩暈(めまい)がして倒れ 地上に向かって堕ち始めた

 

北の女神は 「スッ」と手を差し伸べて 北風小僧を手のひらで受け止めた

 

渦はさらに早く回転し 「ポンッ」と何かが飛び出した

 

飛び出した“”それ“”は 「森の鎮守様」の鳥居をくぐり出ると

田圃(たんぼ)を横切り 小川に沿う『風の道』を走り出した

 

本当はカッコよく颯爽に走りたいのだが まだ“生まれたての“”ほやほや“”なので

制限速度が30kmの『風の道』を 制限速度以下の超安全運転で走っている

 

小川に架かる橋のところで右に旋回すると 今度は「森の鎮守様」に向かい

安全走行で戻って来る

 

目を凝らして“”それ“”をよく見ると セミロングの黒髪をキュッと結んだ小娘だった